Devconnect & ETHGlobal Buenos Airesから得た学び
2025/12/04
Curvegridチームは、11月15日から23日にかけて、日本からアルゼンチンを訪れ、DevconnectおよびETHGlobal Buenos Airesに参加しました。現地の開発者やプロジェクト関係者と直接対話し、ラテンアメリカにおける暗号資産/Web3エコシステムの動向を把握するとともに、Ethereumを中心とした最新技術やユースケースを調査することが目的です。
本記事では、現地に足を運べなかった方に向けて、イベント全体の雰囲気や繰り返し議論されていた主要テーマ、そして私たちが特に重要だと感じたポイントを整理してご紹介します。

Devconnect Argentinaの雰囲気と、その意義
Devconnectは、単一の会場・単一のアジェンダで行われる一般的なカンファレンスではありません。都市全体を舞台にした、Ethereum版の「万国博覧会(World’s Fair)」のような存在です。コアプロトコル開発者、アプリケーションビルダー、研究者、そして初めてEthereumに触れるユーザーまでが、同じ空間に集まるよう設計されています。
会期は11月17日から22日まで。ブエノスアイレスのパレルモ地区にあるLa Ruralを中心に、1週間にわたってグローバル・ローカル双方の展示が行われました。
Devconnectは意図的に、次の2つの視点から体験が設計されています。
ビルダーにとって
チームと出会い、人材を見つける
新機能をリリースし、初期ユーザーから直接フィードバックを得る
ユーザーにとって
実際に動いているアプリを触れる
DeFi、ゲーム、プライバシーツールなどを体験する
Ethereum上で実現される「未来の都市」を垣間見る
6日間、La RuralはまさにEthereumのWorld’s Fairとなり、以下のような要素で満ちていました。
実利用を伴うライブデモ中心のアプリ展示
Ethereum Dayを含む、コア開発者向けのプログラミング関連イベント
ReFiやオンチェーンクリエイターなどをテーマにしたコミュニティハブ
会期中ずっと開発を続けられる専用コワーキングスペース
私たちにとって、この「World’s Fair」というテーマは非常にしっくりくるものでした。ブロックチェーンは単一用途の技術ではなく、金融、ゲーム、物流、アイデンティティなど、あらゆる分野を支える基盤インフラになりつつある——その現在地を象徴していたからです。

トークや議論から見えた主要なテーマ
会場でのセッションや廊下での会話を通じて、何度も浮かび上がってきたテーマをまとめます。
1)プライバシーは「暗号技術の問題」である前に「UXの問題」
ユーザーが気にするのは抽象的な権利よりも、日常的で現実的なリスク
コンプライアンスと分散性は両立可能。ただし「最大限の法的プライバシー」を目指すべき
専門用語よりも、既存のメンタルモデルに合う言葉や比喩が重要
示唆
プライバシーツールは、より高度な数学だけでは普及しません。オンボーディング、デフォルト設定、言葉選びによって、ZK証明を理解しなくても「安心できる」と感じられる体験が鍵になります。
2)AI × Crypto:AIエージェントにオンチェーンのルールを
Cryptoは、数学・規制に続く「第3の制約条件」になり得る
エージェントには、オンチェーンでの説明責任、個別ルール、ガードレールが必要
人間は「実行者」ではなく「オーケストレーター」へと役割が変わる
示唆
AIエージェントが当たり前になるほど、ブロックチェーンは「お金」と「権限」を安全に与えつつ、コントロールを失わないための最適な場所になる可能性があります。
3)オンチェーン決済:本来のユーザーはエージェント
24時間稼働し、ルールを厳守する存在には人間よりブロックチェーンが向いている
課題はスループット、データ標準、所有権の不明確さ
Web2的な囲い込みを再生産せず、ユーザー主権を守ることが重要
示唆
支払いとルールをオンチェーンに組み込むことは、カストディ型プラットフォームを再発明せずに、エージェントを自律的に動かす最もクリーンな方法かもしれません。
4)機関投資家は「暗号資産」を求めているが、UXは馴染みある形で
ポリシー制御ウォレット、アクセス管理、安全な抽象化が必須
単なる保管ではなく、流動性提供、ガバナンス、利回り獲得などに参加したい
相互運用性は依然として大きな課題
示唆
普及への道は、「UXとコントロールモデルにおいて、機関投資家と歩み寄ること」にあります。
5)コンシューマー向けアプリは、まだマスに届いていない
クロスチェーン/クロスエコシステムは依然として難題
UXと信頼性は、今も最大の障壁
示唆
技術がどれだけ進歩しても、「簡単で安全」に感じられるまで、マスアダプションは起きません。


チームメンバーの振り返り(Q&A)
ここからは、現地でチームが実際に体験したこと、刺激を受けた点、意外だった点、そして今後の取り組みに影響を与え続けるであろう気づきを紹介します。
Q. Devconnect Argentinaで一番楽しみにしていたことは?
Jeff
旧友との再会や新しい出会い、Solidity Summitなどを通じた最新技術のキャッチアップ。特にZK/プライバシーやステーブルコイン。
Dahu
プライバシー関連のトピック。
Grace
Web3コミュニティと再び対面で会えること。起業家精神に満ちた人たちが、世界を変えようと本気で取り組んでいる姿にいつも刺激を受けます。
William
アルファホーレス……と言いたいところですが、プライバシープロトコルです。
Q. 今回の旅で最も印象に残ったことは?
Jeff
同じ場所に集まることで、普段はビデオ通話でしか会えない人たちと、密度の高い対話ができたこと。これはやはり代替できません。
Dahu
アルゼンチンには想像以上に多くのローカルビルダーがいたこと。
Grace
プライバシー重視の人、機関向けビルダー、規制当局など、多様な視点に触れられたこと。Web3がまだ初期段階で、バランス感覚が重要だと再認識しました。
William
ETHGlobalの審査をしながら、新しいアイデアに触れられたこと。

Q. 印象に残ったトークは?
Jeff
選ぶのは難しいですが、ETHGlobal PragmaでのMartin Derkaによる「DeFiの歴史」に関するトークは、この分野をここまで分かりやすくまとめたものは他にない、と思えるほど素晴らしかったです。
Dahu
ETH Client SummitでJames Prestwichが話した「ノードの可観測性(Observability)標準」に関するセッションです。クライアントには、もっと可観測性のための標準が必要だと感じました。
Grace
DevconnectでのDanny Ryanによる「Institutions 🤝 Decentralization(機関投資家と分散化)」です。
印象的だったのは、ウォール街をはじめとする機関投資家は「分散化」を求めている、という指摘でした。彼らは分散化を、重要なビジネス要件の観点から捉えています。インフラレイヤーにおける分散化と信頼できる中立性は、カウンターパーティリスクを大きく低減、あるいは排除します。
また、機関投資家は「100%の稼働率」を非常に重視しています。複数クライアントや数千のノードに支えられた分散型システムのレジリエンスは、まさにこの要件に応えるものだと感じました。
William
Peter Van Valkenburghによる、プライバシーと、従来のKYC/AMLに代わるプライバシー保護型アプローチについてのトークです。

Q. お気に入りのサイドイベントは?
Jeff
Devconと比べてDevconnectは、より「アンカンファレンス」的で、ほとんどがサイドイベント中心です。その中で一つ選ぶのは難しいですが、Devconnect開始前の日曜日に開催されたEthereum Cypherpunk Congressは、特に印象的でした。
デジタルの自由を守るために戦ってきた過去と現在の経験が語られ、未来に向けた希望と警鐘の両方が共有される、非常に素晴らしいアジェンダでした。
Dahu
ETH Client Summitです。今回は参加できませんでしたが、rAAVEもとても良かったと聞いています。
Grace
Privacy Salonでのディスカッションが良かったです。登壇者が5分で発表し、その後5分間ディベートする形式がとても面白かったです。今年のDevconnectではWeb3プライバシーが大きなテーマで、登壇者同士が自分のアイデアを主張し、質問し合い、互いに挑戦する姿が非常に印象的でした。
William
WalletConです。ウォレットはWeb3 UXの中でも特に難しい領域だと思っているので、多くのプロジェクトが競争しつつも協力して課題解決に取り組んでいる様子を見るのは興味深かったです。
Q. 一番印象に残った食事は?
Jeff
予想通りステーキです。ただ、意外にもシーフードもとても美味しかったです。それと、焼きたてのメディアルナ(アルゼンチン風クロワッサン)は嬉しい発見でした。
Dahu
初日の夜に行ったHuachoで食べた最高の牛肉です。
Grace
イベントでよく提供されていたメディアルナが大好きでした。ふわふわした食感で、甘くてバターの風味があり、つい何個も食べてしまいます。
William
Dodó caféのサンドイッチです。
Q. 特に印象に残ったビルダー/プロジェクトは?
Jeff
ETHGlobalのDemo Dayです。過去のハッカソンから生まれたプロジェクトが多く、とても興味深かったです。今後このイベントがどう発展していくのか楽しみです。
Dahu
eRPCです。これまで知らなかったプロジェクトですが、とても面白いと感じました。
Grace
Nightfall_4です。従来のオプティミスティックロールアップではなく、ゼロ知識証明ベースの設計に置き換えることで、チャレンジ期間なしにほぼ即時のファイナリティを実現しています。
パブリックなEthereumネットワークのセキュリティと透明性を活かしつつ、プライバシーを確保できる点は、プライバシーとコンプライアンスを求める企業にとって現実的な選択肢だと感じました。EYのような伝統的な企業がエンタープライズ向けのプライバシーソリューションに取り組んでいる事実からも、Cryptoが単なる「実験」の段階を超えつつあることが分かります。
William
https://github.com/ethereum/kohaku

Q. このカンファレンス後に、特に探求してみたい新しいアイデアは?
Jeff
Solidityのコア改善です。言語としての大きな進化と、デバッグ体験の向上に期待しています。
Dahu
たくさんありますが、特にプライバシープロトコルをもっと試したいですし、クライアント開発にもより深く関わりたいと思っています。
Grace
ユーザーの現実的な課題を直接解決する、アダプション重視のアイデアです。実用的な価値と明確なユースケースに焦点を当てる流れは、メインストリーム普及に向けた強い方向性だと感じました。
また、オンボーディングや分かりやすさ、エラーハンドリングを改善する「UXファースト」のプライバシーツールにも強い関心があります。
William
Railgunとプライバシープールです。
ETHGlobal Buenos Aires:ハッカーの熱量とプロダクトの現実(11月21–23日)
ETHGlobal Buenos Airesのハッカソンは、数千人のビルダーが週末だけでプロトタイプを作り上げる、非常にエネルギーに満ちたイベントでした。総額50万ドルの賞金プールも用意されていました。

Curvegridは、ブロックチェーン開発プラットフォーム MultiBaas を最も効果的に活用した5チームに、それぞれ5,000ドルをスポンサーしました。ブースではステッカーやPOAP、カラフルなバンダナも配布し、立ち寄ってくれた方にはポストカードを書いてもらいました。


共同創業者のWilliam Metcalfeは、MultiBaasを使ったコンプライアンス対応RWAプロジェクトの構築方法についてワークショップを実施し、実際にそこから着想を得たチームも生まれました。

このハッカソンを通じて改めて感じたのは、勝者が必ずしも「最も技術的に巧妙」なチームではないということです。摩擦を減らし、素早く統合し、UXと実際の業務フローに集中したチームが評価されていました。

最後に
Devconnect Argentinaは、この規模で行われた初のEthereum World’s Fairでした。
75以上の展示プロジェクト
100以上の関連イベント
130か国から2万人以上の参加者
数字以上に印象的だったのは、Ethereumが確実に成熟フェーズに入っているという感覚です。繰り返し問われていたのは、次の問いでした。
「ユーザーの主権を奪うことなく、使いやすさ・コンプライアンス・分散性をどう両立させるか?」
アルゼンチンは、この議論の場として非常に象徴的でした。ボラティリティを理解し、オープンなシステムの価値を知り、現実的な制約の中でビルドしてきた土地だからです。
私たちはブエノスアイレスを後にする頃、強いエネルギーと共に、次の確信を持っていました。
暗号資産の次のフェーズは「新しさ」ではなく、「実際のユーザーの生活を楽にし、伝統的な組織にも採用可能にするプロダクト」によって定義される。
